大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)2841号 判決

被告人 森山欽司

〔抄 録〕

各控訴趣意全般について。

原審における所論各関係人の原審公判廷における証言拒否は、刑事訴訟法上当然の権利を実行したものであつて、その拒否した事実あるの故をもつて、刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号本文にいわゆる前の供述と相反するか、若しくは、実質的に異つた供述をしたときとあるに該当しない。従つて、原審が、右証言拒否を理由にその者達の前にした検察官に対する供述調書を証拠に採用したことは、とりもなおさず採証の法則に違反すると共に、本来証拠能力のない証拠をもつて事実を認定したものであるから、結局原判決はその理由を附さないか、或いは理由にくいちがいあるの違法を冒したものであると主張するが、証人が、公判廷において、公訴にかかる事実に関連ある事項につき尋問を受けるにおいては、さきに検察官によつて録取された供述調書の内容と相違する供述をすることになるかも知れないから僞証罪の疑により刑事訴追を受ける虞があるとの理由により証言を拒否したような場合には、同証人が、右と同一の事項に関して前に検察官に対してした供述と実質的に異つた供述をしたものと解するを相当とする。なるほど、刑事訴訟法第百四十六条には、証人に証言拒絶の権利のあることを規定しているが、同条にいわゆる刑事訴追を受ける虞れがあるとの意味は、証言内容自体に刑事訴追を受ける虞れのある事実を包含する場合のことを言い、証人が、真実の証言をしようとする場合に偽証罪の訴追を受ける虞れありとして証言を拒否し得ないものであること及びかかる刑事訴訟法上の解釈が憲法第三十八条第一項との関連において許されるものであることはすでに最高裁判所が判例(昭和二十八年(し)第二十六号、昭和二十八年九月一日第三小法廷決定)とするところであるから、所論前示の如き証言拒否が刑事訴訟法上当然の権利であるとして展開する所論は、その立論の前提においてすでに理由なく、到底採用するに由がない。

前同控訴趣意B点二及び弁護人Tの控訴趣意第二点(三)について。

所論各関係人等が原審公廷で証言を拒絶した事実が、刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号本文にいわゆる前の供述と実質的に異つた供述をしたときとあるに該当し、その者等の前にした検察官に対する供述調書が証拠能力を有することは前示冒頭控訴趣意に対する説明としてすでに説述したところである。なるほど、右関係人等は、原審公廷において証人として尋問を受けるや、その尋問の途中一部事項につき、さきに検察官によつて録取された供述調書の内容と相違する供述をすることになるかも知れないから偽証罪の疑により刑事訴追を受ける虞れがあるとの理由から証言を拒否したところ、原審は、当該証人にその供述の義務ある旨の決定を為したことに対し、関係弁護人から最高裁判所に特別抗告の申立を為し、同裁判所は供述義務があるとの趣旨でその申立に対し棄却決定の裁判のあつたことは記録上明らかなところであるが、そうした裁判があつたからといつて、本来証拠調の要否についての自由を有する事実審裁判所として更に再び右同一証人につき証拠調をしなければならないものではないと共に記録によつて窺われるように、更に再び同証人を尋問するも前の証言と同様の結果しか得られないことが推認され、而も、原審は、それらの証人を再び尋問するまでもなく、心証上事実認定に欠くるものがないとの見解に立つて右再度の証拠調を為すことのなかつたことの窺われる本件において、原審が所論証人につき再び証拠調をすることなく、当該証人の前にした検察官に対する供述調書の証拠能力を認め、これを原判示事実認定の証拠に採用したからといつてその訴訟手続において毫も所論にいうような法令違背はなく、採証上の法則に違背したものがあるということもできない。所論もまた採用するに由がない。

(三宅 河原 遠藤)

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